研究概要 |
岩体中のき裂に沿って低温の流体が流れれば,岩体の温度は初期状態よりも大なり小なり低下する.さらに,温度が低下すると岩体の熱収縮が起こり,この結果,き裂が開口してその透水性が増大すると一般には考えられている.しかし,岩体が大きな地殻応力の作用する圧縮応力場にあることを考えると,熱収縮によってき裂が開口しようとしても,大きな地殻応力がそれを妨げてしまう可能性もあり,き裂の透水性が冷却と共に単純に増大するかどうか定かではない.そこで本研究ではまず,地下岩体中の一部が球状に冷却されるというモデルにより,冷却部に生じる応力低下量を見積もる解析解を誘導した.さらに,その岩体が遠方に作用する応力(地殻応力)で圧縮されている場合に,冷却に伴う熱応力の発生によって冷却部の応力が丁度零になる条件を調べたところ,地殻応力と岩体物性で一意に決まる臨界値まで温度を下げれば良いことがわかった.この結果から,同臨界値以下の温度の水を地下岩体中のき裂に圧入すると,き裂面垂直応力が零となり,き裂の透水性が急増することが予想された.そこで,岩手県の葛根田地熱発電所において地下から取り出した蒸気を地下に還元する際の温度と流量の関係を調べたところ,上記モデルで予想される温度を境として流量に明らかな増加頃向が現れることがわかった.この結果は,従来は手探りで行われてきた還元条件の設定に明確な指針を与えるものであり,地熱発電の効率化と環境保全における貢献大と考えられる.一方,氷をモデル材とし,その立方体ブロックに掘削した模擬坑井に適当な温度の寒剤を流し込むことによって,坑井周りに起こるき裂発生挙動を調べる室内実験を行った.その結果,地殻応力模擬した圧縮応力をブロック側面に負荷した状態でも,適当な温度の寒剤を用いれば坑井壁面から引張き裂が発生し,その挙動は熱応力を考慮した弾性解析で定量的に評価できることがわかった.
|