ICRP60勧告において職業被ばくとしての取扱いが指摘された宇宙活動や航空機利用に伴う線量測定、また世界的に計画・建設が相次いでいる大強度陽子加速器周辺の放射線防護計測、東海村臨界事故後に指摘された緊急時線量評価など、近年重要度が増している「個人中性子線量計測」において、飛跡検出器は最も有望な素子のひとつであると考えられている。本研究の目的は、種々の粒子飛跡の記録特性を明らかにするとともに、高LET粒子の計測手法を確立することにある。 プロトンなど重荷電粒子に対する基礎データを取得した昨年度に続いて、今年度は、高エネルギー中性子に対するプラスチック飛跡検出器の応答特性の評価と増感用ラジエータの検討を行った。 (1)二層ラジエータの提案 昨年の実験から、速中性子用ラジエータとして最も一般的なポリエチレンでは、十分な感度が得られないことが分かった。そこで、昨年確立した検出効率の理論的評価のための計算手法を用い、種々検討した結果、重水素化物質とポリエチレンから成る二層構造が有望であることを見出した。このラジエータでは、重水素化物質層は、その奥のポリエチレン層で発生したプロトンの減速材としての役割に加え、自らの層内で発生するデューテロンの供給源の2つの役割を担っている。 (2)二層構造の効果の実験的検証 日本原子力研究所との連携研究というの枠組みで高崎研究所TIARAでの実験を実施した。45MeVと70MeVの準単色高エネルギー中性子に対する応答データ、特に、軽水および重水ラジエータによる増感効果に対する詳細なデータを取得し、二層構造の効果を実験的に確認した。 なお、これらの成果の一部は、2004年8月バルセロナで開催された国際会議(22nd International Conference on Nuclear Tracks in Solids)において報告した。
|