電力市場の制度改革を議論するためには、シミュレーションモデルによる方法が有効である。電力市場に対するシミュレーション環境構築の最終目的は、何らかの意味で望ましいと考えられる市場を実現するための意思決定の枠組みを検討することにある。本研究では、シミュレーション環境上で実現された電力市場に対して、適切な制度を設計するための方法論を開発することを目的とする。具体的には、あらかじめ用意された意思決定アルゴリズム群に対して、定量的に定義された異常と判断される市場挙動の実現を妨げる、最小限必要な市場制度を求める方法論の開発を目的とした。 本年度は、過去に構築した開放型シミュレーション環境において、その電力市場に所定の行動をとらせることができるための、市場参加者の意思決定アルゴリズムの集合体を作成することに重点をおいて研究を進めた。具体的内容を、以下の項目に示す。 (1)電力市場シミュレーション環境の基盤システムの構築 分散意思決定シミュレーションモデルの基盤を整備した。 (2)自由化された電力市場で起こりうる種々のシナリオ、及びその実現のための各意思決定モデルの構築 自由化された電力市場で起こりうると考えられる種々のシナリオを、ブレーンストーミングの手法及び人間を被験者とする実験経済学の手法を用いて複数作成し、そのシナリオを実現する、供給事業者、配電事業者及び需要家の意思決定モデル群を作成した。 (3)人間を加えたシミュレーションによる新たなアルゴリズムの抽出 人間とプログラムとが混在する市場シミュレーションを通して、既存のアルゴリズムの調整を行うとともに、人間の行動の記録に基づいて新たな意思決定プログラムを作成し、データベース化を行った。 そして、以上の準備の下で、予備的なシミュレーションを実現した。
|