研究概要 |
ミトコンドリア内で生成される活性酸素によるタンパク質やDNAの損傷が老化の要因であるとする考えは,ヒトをはじめ,いくつかのモデル生物によって検討されてきた。本研究では,ショウジョウバエを用いてミトコンドリアDNA(mtDNA)の塩基配列によって有意に異なる寿命の決定機構を検討することを目的としているが,そのために本年度は,D.melanogasterを用いて,加齢にともなって生じるmtDNAの構造変化,およびミトコンドリアの形態や呼吸鎖複合体の活性の加齢にともなう変化の解析を行った。その結果,以下の点が明らかとなった。 (1)mtDNAのほぼ全域を4つに分割し,PCRによって欠失の有無を調べたところ,55〜65日齢の個体では欠失を含むと思われる小さなDNA断片の増幅が見られた。このようなDNA断片の塩基配列を多数決定し,欠失が含まれていること,また,欠失の生じる部位にはダイレクトリピートが頻繁にみられることを確認した。このことより,欠失の生成には,ダイレクトリピートが関与する機構がふくまれていることが示唆される。 (2)さまざまな日齢の成虫個体の胸部筋肉を用いて,電子顕微鏡によってミトコンドリアの形態の観察を行った。加齢した個体ではミトコンドリアの断面積の増加が見られたが,35日齢頃からこの変化が現れることが明らかとなった。 (3)さまざまな日齢の成虫から調整したミトコンドリアを用いて,呼吸鎖複合体の活性を複合体IおよびIIから電子が流れる経路について調べたところ,いずれの場合も,35日齢より前から活性の減少があることが示された。 これらの結果は,いずれも死亡率が増加する以前の35日齢頃からミトコンドリアの構造や機能に変化が現れはじめることを示し,呼吸鎖の変化によって活性酸素が増加することがDNAの損傷にもつながる可能性を示唆している。現在,mtDNAの点変異についての解析も進めており,これらの結果を総合して,ショウジョウバエの加齢にともなうミトコンドリアの変化の全体像をまとめたい。
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