モデル生物であるショウジョウバエは、老化研究においてもまた有用である。本研究では、ミトコンドリア内で生成される活性酸素による生体分子の損傷が老化の要因とする説を、ショウジョウバエにおいて検証すること、および加齢にともなうさまざまな現象を基に寿命決定にミトコンドリアが関わる機構を考察することを目的としている。本年度は、加齢にともなうミトコンドリアDNA(mtDNA)の変化をさらに調査するとともに、mtDNAの塩基配列と寿命の関係について解析を進めた。 (1)D.melanogasterの標準的な野生型の系統を用い、加齢にともなってmtDNAに欠失が蓄積することを以前に示したが、さらに点突然変異、DNAの酸化マーカーである8OH-dGについて調べた。その結果、点突然変異は羽化後1日と55、65日で有意な差は見られなかった。この理由については現在検討中である。それに対し、8OH-dG量は、核DNAよりもmtDNAに多く、いずれも羽化後1日よりも55日で有意に増加していた。 (2)核ゲノムが同一でmtDNAが異なるD.melanogasterのいくつかの系統を用い、ストレスが高いと思われる28℃において寿命を測定したところ、異種に由来するmtDNAをもつ系統では、寿命が短くなる傾向が再確認された。これらのmtDNAの塩基配列の確定を現在進めている。さらに、これらの系統のひとつとそのコントロール系統について、一生の行動量を測定することを試みたところ、mtDNAの塩基配列によって行動量やリズムに差異のある傾向が示された。 これらの結果は、mtDNAが寿命と大きく関わっていることが示唆するものであるが、その詳細な機構についてはさらに検討が必要である。ことに、行動に変化が現れる機構は老化との関連においても興味深く、今後も解析を進める予定である。
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