マウスMurr1遺伝子は3つのエクソンで構成されており、その第一イントロン内に父性アリルのみが発現するゲノム刷り込み遺伝子、U2af1-rs1(以下U2と略)が存在する。その転写はMurr1とは逆である。我々はこのMurr1遺伝子が成体脳でのみ母性アリル優勢発現をするゲノム刷り込み遺伝子である事を見いだした。本研究課題はこのゲノム刷り込み機構の解明を目的としている。本遺伝子の上流、下流それぞれ100kbの領域で発見した9個のCpG islandのメチル化状態の解析を行った。9つの内U2遺伝子に存在するCpG islandのみが母性アリルのみでメチル化されており、他の8つはメチル化されていなかった。このことはCpG islandのメチル化はMurr1遺伝子のゲノム刷り込みに関与していない事を示唆している。そこで、U2遺伝子の父性アリル特異的発現が関与するという仮説を検討した。胎仔、新生仔、成体と生育過程の進行に伴って、脳でのU2のMurr1に対する相対的発現量は6-10倍に増加する。また、成体脳ではU2遺伝子から始まった転写がMurr1のプロモーターまで達していた。これに対し、Murr1のゲノム刷り込みがない肝臓ではU2のMurr1に対する相対的発現量は生育過程を通じて低く、Murr1プロモーターに達するU2遺伝子からの転写は見られなかった。この事は、父性アリルのU2からの転写がMurr1プロモーターに達して、そこでの転写開始を阻害する事でMurr1の母性アリルの優勢発現をもたらす事を強く示唆している。Murr1のトランスジェニックマウスを作成した。現在その子孫をとり、ゲノム刷り込みの有無を解析している。また、成体脳におけるMurr1プロモーターでのヒストン化学修飾をChIPアッセイで解析するため、予備実験を行っている。
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