アブラムシは植物体上にコロニーを形成する昆虫で、コロニー内では一般に複数のクローンが共存している。異なるクローンが共存することでクローン間にどのような相互作用が生じるのかという問題はアブラムシの進化を考えるうえできわめて重要であるが、これまでほとんど考慮されてこなかった。とりわけ、アリに随伴を受けるアブラムシでは、アリの保護を巡ってクローン間で競争が生じうるはずである。クローン間の競争がどのような形で生じるのかを明らかにするために、均一の環境条件の下でアブラムシクローンを単独条件、および共存条件の下で飼育し、コロニーの増殖を長期にわたってセンサスした。実験に用いたヨモギヒゲナガアブラムシは、クローンが色彩によって区別できるためにクローン間競争を定量化するのに最適である。また野外での観察では多くのコロニーにおいて色彩多型が保たれていた。平成15年度はアブラムシのクローン間の相互作用について詳しいデータをとるために、アリの影響を排除して、アブラムシの2クローンをペアーとして、同一クローンのヨモギに接種した。均一な環境で飼育を行うために、ヨモギを株分けすることによって6個体に分割した。単独クローン区ではアブラムシのそれぞれのクローンを各ヨモギ個体に4頭ずつ接種し、共存クローン区では2つのクローンを2頭ずつ接種した。分析の結果、単独区ではどの株においてもアブラムシは最大収容レベルにまで増殖できたが、他のクローンと共存させた場合、必ず一方のクローンの密度レベルは単独区での密度レベルよりも大きく減少した。この実験によって、クローンには競争能力の違いが存在しており、共存させると必ず一方が低いレベルに抑制されることが明らかとなった。この結果、遺伝的多様性はクローン間競争によって減る傾向にあると推測できる。16年度は、クローンの多様性を保つ要因を明らかにするための実験を続ける予定である。
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