研究概要 |
熊本市白川河口の砂質干潟ベントス群集の予備調査結果より,アサリの密度は低いものの他の二枚貝シオフキは高密度で優占していることが明らかとなった.さらに,梅雨時などの大雨に伴って増水した河川水が干潟にしばしば氾濫し,二枚貝全般が大量死することも観察している.1953年に起きた白川大水害の後,河口では大規模な浚渫が行われ,干潟への河川水氾濫は無くなった.これと並行して1970年代末までアサリ漁獲量が著しく増えた.しかし,再び河床が土砂で埋まってきたのに伴って,干潟への河川水氾濫が頻発するようになった.これらの経緯を検討し,二枚貝の大量死の原因は,海水塩分の急激な低下と氾濫河川水によって運ばれてくる浮泥の被覆にあるとの仮説を立てた.今年度は,年間を通じて二枚貝2種の個体群動態および塩分と浮泥堆積量の変動を追跡し,上記仮説の実証に向けた研究に着手した.2003年4月より,岸から大潮低潮線に至る2本のトランセクト上で継続調査を行った.成体の分布については,4月,6月(入梅直前),7月(梅雨開け直後),8月,10月に調査を行った.稚貝の分布については,毎月2回の大潮ごとに調査を行った.同時に水温・塩分計を設置し,塩分を継続的に観測した.その結果,二枚貝2種個体群の大量斃死が梅雨時に実際に起こること,それが淡水氾濫による塩分低下と最大20cmの厚さの浮泥堆積に平行していることが確認された.さらに,シオフキガイ個体群のほうがより頑健であり,それは年間を通じての繁殖努力量,すなわち新規加入回数の多さによることが明らかになった.さらに,高潮帯に優占するニホンスナモグリ(巣穴に棲む十脚甲殻類)の生物攪拌作用による浮泥量軽減がシオフキの生残に有利に働いていることが示唆された.
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