研究概要 |
熊本市白川河口の砂質干潟には,地下深い巣穴に棲む十脚甲殻類のアナジャコとニホンスナモグリ,二枚貝のアサリとシオフキが優占している.二枚貝の新規加入のピークは梅雨期にあり,初期減耗率は河川氾濫の影響を受ける.また,4種間には共通の食物源(植物プランクトン)をめぐる競争があると推測される.2004年4〜8月の大潮干潮時に,岸沖方向に設定した5本の観測線(最長2.3km)上80m間隔で設けた地点で,十脚甲殻類と二枚貝の個体数密度の調査を行った.ニホンスナモグリ成体は,5本の観測線上,岸から400〜700mまで平均256/m^2の密度で分布していた.アナジャコ成体はおもに白川から離れた3本の観測線上,ノホンスナモグリ帯の沖側に平均7.5/m^2の密度で分布していた.密度調査方形区内における各種の巣穴内径頻度分布,および全長と巣穴内径,湿重量と全長の回帰式を求め,干潟全体(3.4km^2)における分布・密度に外挿した結果,アナジャコ・ニホンスナモグリの現存量はそれぞれ98t,273tと推定された.これは二枚貝個体群の潜在的競争者として無視できない数字である.シオフキ・アサリは十脚甲殻類とほぼ排他的に分布しており,白川に近い2本の観測線上で,より高密度であった(それぞれ複数採集日の平均値11.5〜52.8/100cm^2;6.2〜10.9/100cm^2).両種とも最低潮帯まで広く分布していたが,分布中心はシオフキが岸側,アサリが沖側に分かれていた.両種とも大潮ごとに新規加入群が認められた.時間経過に伴い,シオフキの分布パタンは変わらなかったが,2週間後との平均減耗率は71%であった.アサリの平均減耗率は52%であり,最低潮帯における生残率が最も高かった.2004年の梅雨期における降水量は平年よりも少なかったものの,不定期に起こる淡水の流入に伴い,稚貝個体群が大きく減耗することが明らかになった.
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