研究概要 |
有明海に注ぐ白川河口の砂質干潟(4.1km^2干出)には,大型ベントス優占種として二枚貝のアサリとシオフキ,地下深い巣穴に棲む十脚甲殻類のニホンスナモグリ(と個体数密度はやや低いがアナジャコ)が生息している.炭素・窒素安定同位体比分析法により,これらの食物源は海洋植物プランクトンに限られることが明らかになった.また,アサリ・シオフキは干潟の50%部分の低潮帯と中潮帯に分かれて生息し,ニホンスナモグリ・アナジャコは残りの部分の高潮帯と低潮帯に分かれて生息していた.二枚貝と十脚甲殻類の現存量推定値はそれぞれ368tと371tであった.二枚貝と十脚甲殻類は食物をめぐる消費型競争関係にあることが強く示唆された.また,ニホンスナモグリは基質攪拌作用によって底質を不安定化し,二枚貝に偏害的干渉作用を及ぼしている可能性も示唆された.このことを実証するために,ニホンスナモグリ帯で2m×2mの本種排除区を8個作り,6ヶ月後の稚貝加入状況を対照区と比べた.しかし,ニホンスナモグリの排除による稚貝密度の有意な増加は検出されなかった.アサリ稚貝密度は最低潮帯で最も高く,成貝の当初の分布・密度もそれを反映していたが,時間経過とともに低潮帯上部まで個体が分散していた.一方,シオフキ稚貝の密度は中潮帯で最も高く,さらに成貝の密度も一貫して同じ場所で高密度を維持していた.砂粒子の移動性と関連する底質の安定性・不安定性が低潮帯と中潮帯で対照的に異なり,アサリの生残には底質の安定性が必要であることが強く示唆された.干潟地盤高は季節的に昇降し,その素過程は底質の岸沖方向のフラックスにあることが明らかになった.低潮帯に着底した稚貝は,底質と同様に平均的な潮汐運動によって等深線と直交する方向(岸沖方向)に分散されたと考えられる.中潮帯では上潮・下潮付近で主に波浪運動に起因する底質の巻き上がりが常に生じていた.稚貝も同様な作用を被るとすれば,シオフキは不安定な底質に適応していると考えられる.
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