研究概要 |
有明海に注ぐ白川河口の砂質干潟(4.1km^2干出)には,大型ベントス優占種として二枚貝のアサリとシオフキ,地下深い巣穴に棲む十脚甲殻類のニホンスナモグリが生息している.アサリ・シオフキは干潟の50%部分の低潮帯と中潮帯に分かれて生息し,ニホンスナモグリは残りの部分の高潮帯に生息していた.このような異所的分布をもたらすしくみとして,(1)食物をめぐる消費型競争と(2)ニホンスナモグリの基質攪拌作用による二枚貝への偏害的干渉競争があることが想定された.まず(1)の実証のために,炭素・窒素安定同位体比の餌料-動物組織間での濃縮係数を室内実験で求め,とくにニホンスナモグリの炭素値について定説(0〜1‰)とは異なる値(2‰)を得た.ベントス3種に対する濃縮係数値を野外データに適用し,これらの食物源は海洋植物プランクトンに限られることが明らかになった.また,二枚貝(軟体部)とニホンスナモグリの個体群現存量の推定値はそれぞれ368tと371tであった(湿重量値).これらのことより,3種が食物をめぐる消費型競争関係にあることが強く示唆された.一方,(2)の実証のために,ニホンスナモグリの野外排除実験を行い,本種がアサリ・シオフキ稚貝の加入に及ぼす影響について調べた.ニホンスナモグリ帯の沖側の端で2m四方の本種排除区および対照区を8個ずつ設置し,6月後の稚貝加入状況を比べたところ,両区の間で稚貝密度に有意な差は見出されなかった.自然状態では,アサリ稚貝密度は干潟の最低潮帯で最も高く,成貝の当初の分布・密度もそれを反映していたが時間経過とともに低潮帯上部まで個体が分散していた.一方,シオフキ稚貝の密度は中潮帯で最も高く,さらに成貝の密度も一貫して同じ場所で高密度を維持していた.底質の安定性は潮位によって対照的に異なっていた.アサリの生残には底質の安定性が必要であるが,シオフキは不安定な底質に適応していることが強く示唆された.
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