北海道におけるこれまでの調査で、キレハイヌガラシが帰化し定着した地域とまだ侵入していない地域を比較すると、モンシロチョウ属のチョウの分布が異なっていた。野外で採集した雌成虫による網室実験では、キレハイヌガラシがエゾスジグロシロチョウとスジグロシロチョウの食草選択性に違いがあることがわかった。 キレハイヌガラシの生育していない地域のチョウはエゾスジグロシロチョウもスジグロシロチョウも、両種の食草のどちらにも産卵したが、キレハイヌガラシとコンロンソウの群落が隣接している地域で採集されたチョウは、エゾスジグロシロチョウはキレハイヌガラシ、スジグロシロチョウはコンロンソウと明らかに異なった選好性を示した。 寄生蜂や寄生バエによる寄生率はキレハイヌガラシの方が低く、栄養的にもキレハイヌガラシの方が優れているので、キレハイヌガラシが北海道に侵入した当時は、両種のチョウともキレハイヌガラシを利用したと考えられる。キレハイヌガラシが定着した地域のスジグロシロチョウがコンロンソウに産卵し、キレハイヌガラシを避けるのは、キレハが侵入してから数十年の間にキレハに対する選好性を失ったと考えることができる。スジグロチョウの示す食草選好性は、エゾスジグロシロチョウとの種間競争の結果キレハの群落から排除されてきたことが示唆される。 モデルによる解析を試みたところ、食草選択性に大きな影響を持つのは、天敵からの回避と種間競争であることが明確になった。野外のチョウの示す寄主植物選好性はモデルの結果からも、種間競争の存在を示唆するものであった。
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