研究概要 |
春日山原始林は特別天然記念物および世界文化遺産に指定されている照葉樹林であるが,国内外来種であるナギ(800年代に春日大社に献木)と国外外来種であるナンキンハゼ(1930年代に奈良公園に植栽)が侵入し,その分布を拡大している.2002年7月から2004年10月までの期間に約120haを踏査し,胸高直径10cm以上の全個体について位置(GPS使用)と胸高直径を記録し,胸高直径10cm未満の個体については,個体あるいはパッチの中心の位置とサイズをそれぞれ記録した.GISを用いてサイズ別に両種の分布図を作成することにより,照葉樹林への外来種の侵入を量的に把握し,空中写真の解析とあわせて、分布拡大プロセスの解明を試みた.さらに森林構造に影響を与えるシカの樹皮剥ぎと樹木選択との関係を植生学と動物行動学の視点から検討した.その結果,樹皮剥ぎにたいするニホンジカの嗜好性と植生との関連性のみでなく,奈良公園の植生にシカの樹皮剥ぎに対する嗜好性が反映されていることが示唆された. 120haの調査範囲において,ナギとナンキンハゼは計約20000個体以上が確認された.樹高1.3m未満(当年生実生含む)の個体数比率を算出すると,ナギは51.9%,ナンキンハゼは85.4%,樹高1.3m以上かつDBH10cm未満の個体数比率はそれぞれ40.9%および13.9%,DBH10cm以上ではそれぞれ7.2%および0.7%であった.両種の最大DBHはほぼ同サイズ(ナギ522cm,ナンキンハゼ51.2cm)であったが,個体数比率の差異は大きく,両種の生態的特性と侵入経過年数の相違を反映していると考えられた.両種は春日山原始林域の西端(奈良公園平坦域側)で個体密度が高く,東側に向かって減少傾向を示した. ナギは最大直径の分布から春日山原始林に侵入後、およそ150年経過していることが、一方、ナンキンハゼは侵入後、およそ50年経過していることが明らかにされた。 外来種の侵入と定着には一過性の自然攪乱と恒常的なシカの採食圧が関係していると考えられたが,空中写真の判読からギャップ林冠を判読した結果、ナンキンハゼはギャップ依存型であり、ナギはギャップに関係なく、季節風のような定期的な気象要因により侵入したと推測された。 いずれにおいても、外来種の侵入後、シカが採食しないことが、拡大の大きな要因になっている.GIS図の作成により、サイズ分布と外来種の空間分布図が量的に明らかにされるなど、シカと照葉樹林と外来種との関係について重要な知見を得ることができた.
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