これまでの研究において、シロイヌナズナの花茎伸長欠損変異株ac15の解析から、その原因遺伝子ACL5はスペルミン合成酵素をコードしていることを明らかにしていた。本研究では、植物の形態形成におけるスペルミンやスペルミジンなどのポリアミンの機能を明らかにする目的で、シロイヌナズナのゲノムにコードされるスペルミン及びスペルミジン合成酵素遺伝子のT-DNA挿入変異株の単離とその解析を進めた。シロイヌナズナが持つ2つのスペルミジン合成酵素遺伝子について、それぞれ変異を単離したところ、単独の変異株では異常な表現型を示さなかったため、二重変異の作出を試みたが、発芽した植物として得られず、胚致死となることがわかった。この表現型は、一方の野生型遺伝子を導入することによって相補され、スペルミジン合成酵素が植物の胚発生に必須であることが示された。さらに、シロイヌナズナが持つ2つのスペルミン合成酵素遺伝子(ACL5とSPMS)については、SPMSの変異株を得たが、正常な表現型を示した。acl5との二重変異株では、スペルミンが検出されなかったが、acl5変異による茎伸長欠損以外に異常は見られず、スペルミンが生育には必須ではないことを明らかにした。 ACL5と花茎伸長の関係については、acl5から茎伸長の回復した優性の抑圧変異株sac51において、原因遺伝子を突き止め、相補実験により確かめることができた。SAC51遺伝子は、その配列から転写因子をコードしていると予想されたが、転写領域にいわゆる上流ORF(uORF)をもっており、変異はそのuORF内に見い出され、転写因子の翻訳効率が上昇して優性変異をもたらしている可能性が示唆された。形質転換植物におけるレポーター遺伝子の発現系を用いて、SAC51遺伝子の翻訳活性がuORFによって制御されていることが確かめられた。
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