研究概要 |
シロイヌナズナ花茎の重力屈性変異体として得た変異体のうちzig-1は形態にも異常を示す。この原因遺伝子が、液胞への小胞輸送を担うSNAREであった事に端を発し、小胞輸送系が支える液胞形成や機能が、どのように重力屈性や形態形成に関与しているのかを、より具体的に理解することを目的にとして研究を行った。zig-1の表現型を抑圧するサプレッサー変異体(zip ; zig suppressor)を単離し解析を行った。zip1はzig-1の重力屈性及び形態における異常をほぼ完全に回復させる優性変異で、細胞レベルでも花茎内皮細胞の液胞構造の異常を抑圧していた。zip1変異はVTI12の1アミノ酸置換変異であった。ZIG/VTI11とVTI12はアミノ酸配列で約60%の相同性を示すが、これまでの生化学的・遺伝学的解析により、両者は一部機能重複を示すが、異なる細胞内局在及び生理学的機能を持つことが判っている。zip1変異のzig-1抑圧のメカニズムについて解析を行い、zip1変異がVTI12のSNARE複合体形成における特異性と細胞内局在を変化させたことにより、VTI12がVTI11の機能を代替できるようになった為であると結論した。また、zip2及びzip3は重力屈性及び形態における異常を部分的に回復させる劣性変異であることが判った。マッピングを行い、ZIP2はAtVPS41,ZIP3はAtVPS35の遺伝子にそれぞれ塩基置換変異を発見した。これらはいずれも出芽酵母のゴルジ体-液胞間の小胞輸送に関与するVps41、Vps35のホモログで、当初の期待通りzipの原因遺伝子はZIG/VTI11が関係するポストゴルジ輸送経路の分子ネットワークの一員であった。いずれの変異体も単独変異体では顕著な表現型を示さない為、逆遺伝学では解析が困難な遺伝子である。以上の結果は、zig suppressorの分子遺伝学は植物体の重力屈性や形態上の表現型を指標にして、細胞内小胞輸送の分子ネットワークや個体レベルでの生理的役割を解析する為の優れた系であることを示している。
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