研究概要 |
これまでに,世界に先駆け活性窒素代謝機能を持つ2種類の植物タンパク質(S-nitrosoglutathione reductase, peroxynitrite reductase)をモデル植物Arabidopsis thalianaおいて同定してきたが[Sakamoto et al.(2002)FEBS Lett.515:20-24;Sakamoto et al.(2003)Plant J.33:841-851],本年度は植物に普遍的に存在するが未だその生理機能が解明されていない非共生型ヘモグロビンについて,その無機窒素・活性窒素代謝への関与を調査した。植物の非共生型ヘモグロビンには3つのイソタイプが存在するが,これらに相当するA.thaliana起源の3種のタンパク質(AtGLB1,AtGLB2,AtGLB3)について以下の点を明らかにした。 (1)大腸菌から精製した3種類の非共生型ヘモグロビンに対する組換えタンパク質は全て,グアイヤコールなどを電子供与体とするペルオキシダーゼ様活性を有する。 (2)このうちAtGLB1組換えタンパク質は,亜硝酸を電子供与体として効率的に利用することができ,活性窒素分子種(おそらく二酸化窒素ラジカル)を生成する。 (3)AtGLB1の作用により亜硝酸から生じた活性窒素分子種はタンパク質チロシン残基のニトロ化を引き起こすことができる。 (4)シロイヌナズナ植物に対する亜硝酸処理によりAtGBL1のmRNAレベルが顕著に誘導される。 以上の結果から,AtGLB1が亜硝酸代謝・活性窒素生成に関与している可能性が示唆された。AtGLB1による亜硝酸からの活性窒素の生成の生理的意義は今のところ不明であるが,活性窒素シグナリング成分としての機能,あるいは亜硝酸毒性に対する防御機構などへの関連が推定される。生理機能の解明はAtGLB1を過剰発現した形質転換植物を用いて現在進行中である。
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