研究概要 |
過酸化脂質が分解して生ずる毒性の強いα,β-不飽和アルデヒド(活性アルデヒド)の植物の環境ストレスへの関与を証明することを目的として,以下の成果を得た。(1)植物組織中の活性アルデヒドの定量法を確立した。この方法を用い,酸化的ストレスを与えたシロイヌナズナ葉の活性アルデヒド生成プロフィルを解析した。メチルビオローゲン+光による酸化的ストレスを与えると,C3およびC4活性アルデヒドであるアクロレイン,クロトンアルデヒドの含量が増大した。動物組織で典型的な過酸化脂質分解産物であるマロンジアルデヒドはほとんど生成しなかった。一方,サリチル酸による酸化的ストレスでは,活性アルデヒドの増大は認められなかった。すなわち過酸化脂質の代謝経路がストレスの種類によって異なることが明らになった。(2)ホウレンソウから単離した葉緑体に活性アルデヒドを与え,光合成への影響を解析した。アクロレイン,クロトンアルデヒド,および4-ヒドロキシノネナールは,葉緑体の炭酸固定活性を強く阻害した。一方光合成電子伝達活性(H_2O→NADP^+)はほとんど阻害されなかった。葉緑体のグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼおよびフルクトースビスホスファターゼが活性アルデヒドにより部分的に阻害されたことから,カルビン回路のチオール制御酵素が活性アルデヒドの主要なターゲット分子であることが明らかになった。(3)活性アルデヒドのα,β-不飽和結合を還元するアルケナールレダクターゼ(シロイヌナズナ遺伝子At5g16970の産物)をタバコで過剰発現させると,オゾン曝露による傷害が軽減された。すなわちオゾンによる葉の傷害に活性アルデヒドが関与していることが明らかになった。
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