本研究の目的は、脳・神経-内分泌系が、脊椎動物への進化の過程でどのような構造上および物質的な変化をしてきたかを推測し、脊椎動物が本来持っている基本的な脳・神経-内分泌系を進化の側面から研究することである。無脊椎動物のなかで最も脊椎動物に近縁であるナメクジウオに注目し、その内分泌調節機構を遺伝子の解析で進めた。ナメクジウオの神経管のEST(Established sequence tag)解析をおこない、ナメクジウオの脳・神経に存在する内分泌物質をはじめとする遺伝子の探索をおこなった。RFアミド、神経ペプチドY、カルシトニンなどの神経ペプチド、ステロイド代謝酵素P450scc、P450c17、17α-20β-HSDの遺伝子が得られ、それらの局在をin situハイブリダイゼーション法で明らかにした。いずれの遺伝子も系統樹では脊椎動物の下に位置した。プロゲステロンは、神経管での存在も免疫染色法で確認した。ステロイド代謝酵素で遺伝子を得られなかった3β-HSDとアロマテースは、免疫染色法で生殖腺での局在を明らかにした。一方、プロゲステロン、エストラジオール-17β、テストステロンの脊椎動物では代表的な性ステロイドの存在を生殖腺で確認し、RIA法で定量した。また、光受容細胞の遺伝子をクローニングし、神経管・脳での局在およびその吸収スペクトルを調べて、ナメクジウオでは神経細胞が光受容の機能に大きくかかわることを明らかとした。このように、生殖を司る光刺激-光受容-脳・神経系-生殖腺で働く神経・内分泌系のさまざまな物質と機能を明らかにすることができた。この研究成果は多くが未発表で解析途中であるが、脊椎動物への生体情報処理機構の進化の解明が期待されている。
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