近年、高等脊椎動物の内分泌系の解析が急速に進展しているが、その起源に関する知見は極めて乏しい。メクラウナギは脊椎動物の進化の最初期に出現した無顎類の遺存種で、視床下部-下垂体系についても原始的な特徴を保持している。本研究では、メクラウナギの腺下垂体ホルモンについて、生産細胞を同定するとともに、それらのホルモン遺伝子を単離することを目的としている。1)前年度に作成したクロメクラウナギ下垂体の遺伝子ライブラリーから、腺下垂体ホルモン遺伝子の単離をめざした。その結果、脊椎動物のゴナドトロピン(GTH)と相同性の高い二種類のクローンが得られた。それらはGTHのα鎖とβ鎖に対応していた。クロメクラウナギのGTHαは、有顎類のGTHαとアミノ酸配列で42-43%の相同性を持ち、一方、GTHβは有顎類のGTHβとアミノ酸配列で27-35%の相同性を持っていた。それらの遺伝子がクロメクラウナギ下垂体で実際に発現しているかどうかを知るため、in situハイブリダイゼーションで調べるとともに、GTHα鎖ならびにβ鎖の部分ペプチドに対する抗血清を作成してGTH産生細胞の同定をめざした。2)前年度までの研究で、クロメクラウナギの腺下垂体がGTH族、プロオピオメラノコルチン(POMC)族、成長ホルモン族の3種類の細胞よりなることが示唆された。GTH族の遺伝子が単離されたことから、次にPOMC族遺伝子や成長ホルモン族遺伝子の単離をめざして大量シークエンスを行っているが、今だ単離に至っていない。3)年度当初に予定していたクロメクラウナギの生理学的な研究は、夏季のクロメクラウナギの漁期に度重なる台風の接近により、漁そのものがほとんど行われなかったため、充分な量の材料を入手することができず、予測した成果をあげることができなかった。
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