ヒドラは、発生生物学における形態形成・パターンフォーメーションの研究の好材料として、古くから使われてきた。このヒドラの足盤形成・再生を対象として、動物における形態形成とサイズ調節のメカニズムの研究を行った。 まず、足盤の形態の観察から、足盤が隣接するペダンクル下部の上皮細胞からの連続した足盤細胞への分化と足盤中央部からの古くなった足盤細胞の脱落によって、一定の細胞数(およそ900)からなる一定の大きさを維持する組織であることを明確にした。 その後、この足盤細胞の分化が起こる部域で特異的に発現している遺伝子をDDRT-PCRの手法を用いて単離することを試みた。その結果、足盤周縁部とペダンクル下部に特異的に発現している遺伝子を発見し、そのcDNAの全長の塩基配列を決定し、その発現パターンにちなんでankletと命名した。ankleは、N末端にシグナル配列を持ち、1つのMAC/PF(Membrane attack complex/Perforin)と、1つのEGFドメインを持つ新規のタンパク質をコードしていることがわかった。その遺伝子構造からは、細胞障害性を持つ可能性が示唆された。一方、足盤の再生時におけるankletの発現パターンの変化をin situ hybridizationによって観察したところ、ankletが足盤細胞分化の初期に働いている可能性が示唆された。そこで、ヒドラにおいて唯一、遺伝子発現を変化させることのできる実験技術であるRNAiの手法をanklet遺伝子の発現抑制を目的に試みた。その結果、RNAiの手法によってankletの遺伝子発現を大幅に抑制できることを明らかにできた。そこで、このRNAiの手法を用いてankletの発現を抑制したところ、正常なヒドラにおける足盤の大きさが縮小し、足盤再生時において再生速度が遅れることが観察された。この結果から、ankletは、ヒドラの足盤形成において促進的に働いていることが強く示唆された。
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