哺乳動物の副腎は中胚葉由来の皮質と外胚葉由来の髄質からなる。両者は発生の過程で合流し一つの臓器を形成する。副腎皮質には、同心円状に存在する3種類の細胞層(球状層:zG、束状層:zF、網状層:zR)が存在し、それぞれ層特異的なステロイドホルモンを産生する。これら細胞層に対して、皮質全層を貫いて放射状に並ぶ細胞群は、系譜を同一とする細胞の集団であることが示されている。しかし、細胞層構築のない胎生期の状態から、成熟組織に認められる細胞集団の形成過程は明らかではない。 平成15年度は、ラット胎生期から機能分化細胞層の形成過程における細胞の配列・配置の変化を明らかにすることに主眼をおいた。我々は、すでに副腎皮質に未分化細胞層(zU)を確認しているが、「多能性の幹細胞を含む層である」を確実に証明するには至っていない。近年、このzUと共通の分化形質を保持する細胞株を確立し、さらにこの細胞株に高発現する遺伝子の同定をsubtractive cDNA cloningにより行った。その結果、新規分泌タンパク質を見出しAZ-1 (adrenocortical zonation factor 1)と命名した。AZ-1は、in situ hybridizationの結果からzG/zUで生合成されるが、免疫組織化学的には、zGでは細胞塊の周りにアーク状に、また、zFRでは束状の細胞配列に平行して存在する洞様血管に沿って局在することが判明した。この結果は、zG/zUで生合成されたAZ-1は分泌後、血流を通じてzFRの細胞周囲に沿って結合することを示唆している。AZ-1の遺伝子を強制発現させたY-1の培養液は細胞外マトリクスであるラミニンと特異的に結合した。事実、上記のAZ-1タンパクはラミニンとほぼ一致して存在した。胎生期後半から成熟期に至る副腎におけるAZ-1タンパクの局在は、常にラミニンの局在と類似して観察された。則ち、皮質の層構造が明確になる出生直前までは個々の小さな細胞塊を包むように円形状に局在するが、出生後、皮質三層細胞への分化が明確になると、上記の成熟副腎における局在に一致した。AZ-1は副腎皮質における組織の形成に関与している可能性が考えられた。一方、AZ-1の発現はzFRに特異的な最終分化形質の遺伝子発現を抑制することが判明した。16年度は、機能分化細胞層の形成、および細胞の配置とAZ-1の関係について3次元的解析を行う。
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