哺乳動物の副腎は中胚葉由来の皮質と外胚葉由来の髄質からなる。両者は発生の過程で合流し一つの臓器を形成する。副腎皮質には、同心円状に存在する3種類の細胞層(球状層、束状層、網状層)が、存在し、それぞれ層特異的に鉱質、糖質コルチコイドおよび副腎アンドロゲンを生成する。これら細胞層に対して、皮質全層を貫いて放射状に並ぶ細胞群は、系譜を同一とする細胞の集団であることが示されている。しかし、細胞層構築のない胎生期の状態から、成熟組織に認められる放射状のクローナルな細胞集団の形成過程は明らかでない。 今年度は、昨年度に続いてラット胎生期から機能分化細胞層の形成過程における細胞の配列・配置の変化を明らかにすることに主眼をおいた。我々は、既に副腎皮質に未分化細胞層(zU)を確認しているが、「多能性の幹細胞を含む層である」を確実に証明するに至っていない。zUの免疫不全マウス腎臓への移植はまだ成功しておらず条件の更なる検討が必要である。しかし、このzUと共通の性質を保持する細胞株樹立の成功はこの細胞株に高発現するAZ-1 (adrenocortical zonation factor-1)の同定に繋がった。AZ-1の発現は球状層に存在する鉱質コルチコイド産生酵素の発現とは相関的に、束状層に存在する糖質コルチコイド産生酵素の発現とは逆相関的にあることから、AZ-1は副腎の層別機能局在を規制する因子の一つと考えられた。AZ-1分子は、分泌シグナル配列の他に広義のEGF様配列、および触媒残基が置換したprocathepsin B様配列を有する。よって、AZ-1は、細胞と細胞外マトリックスとをつなぐ因子である可能性、あるいは、細胞外の基質分解に関与し、細胞の接着・運動を制御する因子である可能性も予測された。In sity hybridizationおよび免疫組織化学的解析の結果AZ-1は球状層とzUで発現し分泌された後、実質細胞の外側に局在することが判明した。副腎においてAZ-1は細胞外マトリックスであるラミニンやコラーゲン、フィブロネクチンの局在とほぼ一致する。ラット胎仔期から成熟過程の副腎における血管系形成は、そのごく近辺に細胞外マトリックスの発現とAZ-1の発現を伴っていた。 副腎皮質の3層は中胚葉由来ではあるが、zU付近で誕生する副腎の未分化細胞は、細胞それぞれの最終分化までにAZ-1などの助けを得ながら血管系に沿った細胞の移動があるものと考える。今後、これらの確固たる裏付けが必須となる。
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