本研究では、外套膜で発現する遺伝子を解析することにより貝殻形成の分子機構の全体像に迫ることを目的としており、昨年度、牡蛎外套膜で発現する遺伝子として単離したNo.68、およびNo.223に関し大腸菌で作製した組換えタンパク質を用いて炭酸カルシウム結晶形成に与える影響を検討したところ、in vitroで炭酸カルシウム結晶形成に対して抑制的な効果をもつことが示され、これらの二つの因子は、貝殻形成に対してネガティブレギュレーターとして機能していると推察される。そこで、本年度、これらの因子と貝殻形成との関わりをさらに明らかにするために、northern blot分析により遺伝子の発現を調べた、その結果、いずれの遺伝子も外套膜で特異的に発現することが示された。 また、アコヤガイの炭酸脱水酵素の一種であるnacreinの組換えタンパク質を用いてCalcium carbonate precipitation assayを行った。本assayは、塩化カルシウムと炭酸カルシウムを含む溶液中にタンパク質を加えpHの低下から炭酸カルシウム結晶形成に与える影響を推察するものであるが、nacreinタンパク質を加えたところ、pHの低下が著しく抑制された。GST単独では、そのような低下の抑制は観察されなかった。このことはnacreinタンパク質は炭酸カルシウム結晶形成に対してネガティブレギュレーターとして働いていることを示唆する。さらに、nacreinタンパク質の炭酸カルシウム結晶形成に対する抑制的な効果がどのドメインに由来するのかを明らかにするために、各種欠失ミュータントを作製し、同様にCalcium carbonate precipitation assayを行った。その結果、Gly-X-Asn繰り返し配列を除去した組換えタンパク質においては、炭酸カルシウム結晶形成に対する抑制的な効果が著しく減少した。
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