無脊椎動物の骨格として典型的な貝殻は、種を同定するための重要な指標とされることからも明らかなように、生物がつくりだす遺伝的に規定された構造物である。ところが、この貝殻、生物によってつくり出されることは間違いないのだが、生物的でない特徴を有している。軟体動物の外套膜と呼ばれる組織の働きにより形成されるのにもかかわらず、その成分の大部分を無機物である炭酸カルシウムが占めているのである。したがって、貝殻の成長は、炭酸カルシウム結晶の無機的なエピタキシャル成長に依っている部分があると考えられるが、当然のことながら、それだけでは貝殻の種特異的な形成を説明することはできない。何か生物的な要素が絡んでいると考えられる。そこで、注目すべきは、貝殻の中に含まれるタンパク質成分であり、これらのタンパク質は外套膜から分泌されることが分かっている。本研究は、以上の観点より、外套膜で発現する遺伝子を解析することにより貝殻形成の分子機構の全体像に迫ることを目的としており、カキおよびアコヤガイの外套膜で発現する遺伝子の解析を行った。当該成果は以下の4つにまとめられる。 1.カキ外套膜で発現するハウスキーピング遺伝子を単離し、その構造を明らかにした。 2.カキ外套膜で発現する新規グリシンリッチタンパク質をコードする遺伝子を単離し、その構造を明らかにした。また、組換えタンパク質を精製後、Calcium carbonate precipitation assayにより、炭酸カルシウム結晶形成に対して抑制的な働きをもつことを示した。 3.アコヤガイ真珠層に存在するナクレイン遺伝子に関して、炭酸カルシウム結晶形成に対して抑制的な働きをもつことを示した。さらに、必要ドメインを特定した。 4.アコヤガイ外套膜で発現する新規グリシンリッチタンパク質をコードする遺伝子を単離し、その構造を明らかにした。
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