研究概要 |
甲殻類の中でもミジンコ(枝角類)は,水温,餌,日長,飼育密度,などの生息条件に応じて単為生殖性の雌が雄を産生したり,休眠卵(耐久卵)を産生する両性生殖性の雌に変換する.これらの外的要因が,体内でどのようなシグナルに変換され,そのシグナルがどのようなメカニズムで性決定や生殖様式の変換に関与しているかは,ほとんど解明されていない.我々は,最近,昆虫の幼若ホルモンの一種であるファルネセン酸メチル(MF)が雄産生に関与していることを見出した.そこで,本研究では,1.MFの有効処理期間の決定,2.MFの生合成系の解析,3.卵成熟に対するエクジステロイドの影響,などについて解析をすすめた. 1.MF処理は卵巣成熟の中頃から後半(形態学的には卵黄の蓄積が始まり卵母細胞が充分発達する時期)に最も有効であることが明らかになった.2.MFが実際にミジンコ体内で合成されているかどうかを調べるために,MFへのmethyl基供与体である[^3H-methyl]methionineをミジンコに注入して[^3H]MFの形成をHPLCにて解析した.今のところ,[^3H]MFは検出されていない.また,MF生合成の律速酵素と考えられているfarnesoic acid O-methyltransferase (FAMeT)の抗体(エビの一種Metapenaeus ensisで作製)を用いたウエスタンプロット法でもMFが合成されているという証拠は得られなかった.現在,FAMeTのmRNAが検出されるかどうかを調べるために,RT-PCRによってミジンコFAMeTのcDNAクローニングを試みている.3.MFと並んで甲殻類のホルモンであるエクジステロイドは,ミジンコの卵巣成熟や雄産生,耐久卵産生に影響を与えないことが明らかになった.
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