本課題の研究目的はカビや細菌などの微生物に対する昆虫の生体防御機構において、異物認識や処理などの過程で重要な役割を果たすフェノール酸化酵素前駆体活性化系(proPOカスケード)の活性化機構を解明することである。昆虫体液より未知のカスケード構成因子を同定すること、特に異物認識からセリンプロテアーゼ前駆体活性化へ至る異物シグナルの変換及び増幅の段階の解明を試みた。本研究で明らかになった点として 1.proPOカスケードが細菌細胞壁成分であるペプチドグリカンによって活性化する際、ペプチドグリカンとペプチドグリカン認識蛋白質が結合した後、グラム陰性菌結合蛋白質がさらに結合することが明らかになった。この複合体形成がペプチドグリカン活性化経路の活性化に必須であると考えられる。 2.この複合体と直接相互作用する未同定のカスケード構成因子Factor Hの精製をカイコ体液から行い、普段は血液中で不活性な前駆体として存在するセリンプロテアーゼであることを突き止めた。現在Factor Hの完全長cDNAのクローン化を行っている。 3.セリンプロテアーゼが活性発現する際の糖やCa^<2+>の影響をthrombinなどをモデルとして調べた結果、添加する糖の構造やカルモデュリン結合蛋白質によってプロテアーゼ活性を特異的に阻害する可能性があることが明らかになり、Ca^<2+>濃度に依存すると考えているFactor Hの安定化に応用する予定である。また、昆虫の生体防御に働くウイルス認識因子を想定してDNAと蛋白質の複合体についてその結合様式を調べ、DNA構造の変化による結合への影響について知見を得た。
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