本年度は、以下のような研究を行うことによりイモリ視覚再生の分子機構の解析を行った。 1.色素上皮細胞の脱分化過程 網膜除去手術前と除去手術後の色素上皮細胞からRNAを単離し、ディファレンシャル・ディスプレイ法により発現量が変化している遺伝子を調べた。その結果、網膜除去後2日目に発現量が増加する遺伝子(CpDD28k)を見いだしたので、現在、詳しい解析を行っている(久冨)。 2.網膜前駆細胞の解析 イモリ成体の網膜(正常網膜)および再生過程にある網膜(再生網膜)に由来するcDNAライブラリーを用いてEST解析を行った。まず、それぞれのcDNAライブラリーから無作為に数百のクローンを単離し、遺伝子上流側から配列を決定した。得られたクローンのうち、スタスミン(微小管脱安定化リン酸化タンパク質で、神経軸策の伸長時に発現が認められる)、チモシン(胸腺因子の一種で、T細胞の分化に関与)、脳由来脂肪酸結合タンパク質(B-FABP)、ガレクチンをコードすると考えられるcDNAの翻訳領域全長を単離した。また、これらの遺伝子に対して、in situハイブリダイゼーション法により、イモリ正常網膜と再生網膜での発現を調べた(久冨・徳永)。 3.網膜細胞への遺伝子導入 in situハイブリダイゼーションによる解析の結果、スタスミン遺伝子は、正常網膜および再生網膜のいずれにも強く発現していることが明らかになった。そこで、スタスミンの塩基配列を元にアンチセンス・モルフォリノオリゴを作製し、イモリ成体の眼球内に導入した。予備的実験の結果では、網膜構造の変性が見られたので、視神経軸策の縮退との関連性に注目して、現在、解析を進めている(久冨)。
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