研究概要 |
本研究では,ユーラシア大陸東部の日本と,大陸西部に位置するポーランドの新第三紀層で共通に産出するブナ属,ヒシ属,クルミ属,サイクロカリア属,サワグルミ属などの植物化石標本を比較し,地質,古環境に関するデータを収集することで,第三紀以降の北半球温帯域で進行した環境変化とユーラシア大陸の東と西における植物の種分化プロセスとの関係の解明を試みた.今年度は,日本国内で収集した新第三紀〜更新世産植物化石について観察を行ったほか,新潟県六日町市周辺の魚沼丘陵で,化石採集を行うとともに,採取層準の地質調査,化石群集に基づく古環境解析を行った.魚沼丘陵に分布する魚沼層群の128層準の植物化石に基づいて2.1Maから0.8Maまでの古気候変化を復元した結果,更新世の寒冷期(氷期)の最暖月の平均気温が摂氏17〜20度程度であり,これは,中部ヨーロッパで復元されている間氷期の最暖月の月平均気温に等しく,日本では氷期の気温が温暖だったために鮮新世以降中部ヨーロッパから絶滅した分類群が残存したことが明らかになった.ポーランド科学アカデミー植物学研究所に赴き,そこで日本の後期中新世産ブナ属化石の葉の表皮細胞の構造をポーランド産ブナ属化石標本と比較したところ,細胞の形態に若干の違いが認められた.これは,ブナ属が漸新世以降にアジアからヨーロッパに分布を拡大したのち,後期中新世にはユーラシア大陸の東西で種分化が起きた可能性を示すものである.中部ヨーロッパ新第三紀の植物化石群は,東アジアの現生分類群を多く含む一方,クルミ属オニグルミ節などのように東アジアよりも北米の現生分類群に近縁の分類群がかなり多く含まれることが,文献調査の結果明らかになった.
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