今年度は本研究課題の初年度であったが、企画した野外調査のすべてについて、一定以上の成果を挙げて無事に終了することができた。沖縄本島において実施した嚢舌類を中心に行った調査では、とくに大きな進展があった。 沖縄では環境条件の異なる4ケ所の海岸を選定し、餌対象として可能性のある海藻類をできる限り種レベルまで正確に同定し、嚢舌類の食生態を詳細に調べた。(1)ハンドソーティングによって嚢舌類を採集し、ついていた海藻の特定を行い、(2)実体顕微鏡下で、それらの海藻を実際に食べるか否かを判定し、さらに(3)多数個体が得られた種については、異なる海藻種を用いた選択実験によって餌選好性を調べることを基本計画とし、秋と初春の2回、調査を行った。2回の調査結果を比較すると、嚢舌類の種組成には明瞭な時空間的違いがあることがわかった。たとえば、有殻嚢舌類の多様性とそれぞれの種の個体群サイズには空間的な違いよりもむしろ季節的な変動が大きいことが明らかになった。この現象の主たる原因となっているのは、イワヅタ類の増減と化学成分の時間的変化などであると考えられる。同様の傾向は他の緑藻グループを利用する嚢舌類でも観察され、全体として非常に高い多様性が生み出されていることがわかった。また、上記のような研究過程で、本邦初の新記録種が数種発見された。 このほかに、三浦半島西岸を中心とした相模湾に於ける調査では、彼の地における極めて高い生物多様性の実態を明らかにすることに加え、嚢舌類については、とくにミル類を食べる種群において食生態の詳細を調査することができた。また、ミノウミウシ類において、いくつかの隠蔽種群の可能性のあるものが見い出された。
|