研究概要 |
後鰓類の多様性を創出し維持する機構として、餌の特殊化が種分化に果たす役割を解明する目的で本研究をおこなっているが、本年度の研究計画のうち、悪天候、自然災害等が重なり、予定していた調査地の一部について計画を実施することができなかった。しかし、瀬戸内海や沖縄に関しては予定どおり行うことができた。とくに今年度は、沖縄の嚢舌類を中心に、餌海藻との関連についていくつかを明らかにすることができた。なかでも注目されるのは、今まで何を食べるかわかっていなかったPlakobranchus ocellatus, Elysia yaeyamanaなどの餌海藻を明らかにできたことである。また、ミル類、ハネモ類などの上にしばしば大量に出現するPlacida sp.(sensu Baba, 1986)に非常によく似た種が、ハネモ類上でPlacida sp.(sensu Baba, 1986)と同所的に出現することを発見した。本邦各地からハネモ類を採集し調べたところ、この種は、沖縄、瀬戸内海、相模湾、北海道南部と、本邦各地に分布することもわかった。現在、この種について記載作業を進めているが、歯舌を含む形態の詳細な観察から、1993年ホンコンから記載されたPlacida daguilarensisの可能性が高いと思われる。そうなると、本発見はこの種の原記載後初めての発見となる。さらに、バロニアやマガタマモなどの海藻の細胞内に入り込んで摂餌を行うErcolaniaの2種を発見した。このような摂餌を行う種として知られているのは、Ercolania endophytophagaのみであるが、本研究で得られた2種は歯舌の形態などがその種とは明瞭に異なり、未記載種であると思われる。この種についても記載作業を進めている。また、これら2種間には食性に差異が見られ、この点についても今後、さらに詳細な野外調査、実験を行っていく予定である。
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