研究概要 |
後鰓類の多様性を創出し維持する機構として、餌の特殊化が種分化に果たす役割を解明する目的で本研究をおこなっている。本年度、著しく研究を進捗させることができたのは、メソハービボアの代表とも言える嚢舌目の一群においてである。詳細な野外調査と標本観察をさらに継続した結果、(1)Elysia属の近縁な2独立種と考えられていたものにおいて、その弁別形質として有効であると考えられていた歯舌の形態が、実は食べる餌海藻や体サイズなどに関係して変化し、同一個体の歯舌の中に個体発生の過程で一方のタイプから他方のタイプに変化する例があることを明瞭に示すことができた。(2)和名、ミドリアマモウミウシPlacida sp.(sensu Baba,1986)(ハネモ類とミル類の両方を食べることができる)について詳細な比較解剖学的研究を行った結果、ハネモ類海藻だけを利用するP.daguilarensis Jensen,1990(基準産地、ホンコン)が隠蔽種として存在していることが判明したので、本邦初記録種として再記載を行った。さらに、これら2種のどちらとも異なる、もう1種、ミル類だけを食べる第3の隠蔽種を発見することができたので、この記載を開始した。さらに、ミル類の一部の種を利用するものには歯舌の形態が異なるものが見られ、Placida species complexはさらに複雑なものである可能性が示された。(3)巨大な細胞からなるオオバロニアやマガタアマモの細胞内に入り込んで中身を食べ、卵塊まで海藻細胞内に産みつける特異な習性をもつErcolania2種(昨年度発見したもので未記載種と思われる)について餌利用調査と餌選択実験を行い、2種のウミウシは餌海藻が重複しているが、餌の好みと選好性が種間で異なることも明らかにすることができた。
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