研究概要 |
蘚苔類(コケ植物)の分類体系の再検討を, (a)形態・解剖学的アプローチとして頂端細胞の形態と植物体の体制の関係について検証し,頂端細胞の特徴,頂端細胞の分裂面の数と分裂面の転換機構を明らかにし,分類体系を再構築するための形態学的データを収集に努めた(出口博則・山口富美夫).取り上げた材料は現行の分類体系では茎葉体制を基本とするウロコゴケ亜綱ハネゴケ科にありながら通常は葉状体制で,生殖器官をつける枝だけは茎葉体制を示すという特異な形態を示すシフネルゴケの頂端細胞と,生まれたメロファイトの発達を追跡した.その結果,葉状体制でも頂端細胞は明瞭な4面体型を示すことを突き止めた.また,茎葉タイ類のSchistochilaの葉上にみられる複雑な葉状付属器官の由来を追跡し,通常の茎葉タイ類の葉と比較した. 国内に産しないが議論に不可欠である特異な形態をもつフタマタゴケ類の材料収集のためにオーストラリアで資料収集を行い(坪田博美・古木達郎),VandiemeniaをはじめLobatiriccardia, Riccardiaなどの種を確保し,現在,分類,形態学的研究を進めている. (b)分子系統学的アプローチではrbcL遺伝子を用いた系統解析をタイ類で体制が茎葉状と葉状の中間的体制を示す群であるフタマタゴケ目Metzgerialesについて進めた.フタマタゴケ目のトロイブゴケ科,ウロコゼニゴケ科,ミズゼニゴケ科,アリソンゴケ科,マキノゴケ科,クモノスゴケ科,ウスバゼニゴケ科,スジゴケ科,フタマタゴケ科の苔類についてrbcL遺伝子を用いて系統解析を行った.この結果,タイ類の大綱分類体系として,タイ類綱のもとにコマチゴケ亜綱,ウルコゴケ亜綱,トロイブゴケ亜綱,ゼニゴケ亜綱の4亜綱を置くのが適当という結論を得た(坪田博美・出口博則).この成果の一部はドイツで開催された国際シンポジウムで発表した.
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