本年度は、日本に分布するチシマゼキショウ属と、日本と台湾に分布するソクシンランを重点的に解析し、現在までに次の結果を得た。 1.チシマゼキショウ属:葉緑体trnK遺伝子領域・trnL遺伝子領域・trnL-trnF遺伝子間領域・核ITS域の塩基配列を分子系統解析した結果、日本に産する4種のうち、イワショウブの類縁が最も遠く、次にヒメイワショウブの類縁が遠く、ハナゼキショウとチシマゼキショウの類縁が比較的近いことが判明した。しかし、近畿地方のハナゼキショウは南九州のハナゼキショウよりむしろチシマゼキショウと類縁が近く、近畿地方のハナゼキショウと南九州のハナゼキショウは別種の可能性が高いことが示唆された。また、アロザイム解析の結果、南九州のハナゼキショウの中でも宮崎県の植物と屋久島の植物とでは遺伝的に大きく分化している一方、チシマゼキショウの各変種間の遺伝的分化の程度は大変小さいことが判明した。九州と屋久島の間の地理的隔離の歴史は古い可能性がある。また、チシマゼキショウの各変種は、石灰岩土壌を好み、よく隔離分布しているが、集団間分化の歴史はあまり古くない可能性が高い。 2.ソクシンラン:アロザイム解析とDNA-ISSR解析の結果、(1)千葉県〜鹿児島県黒島グループ、(2)奄美大島〜沖縄島グループ、(3)台湾グループの3つのグループの間で遺伝的に大きく分化していることが判明した。従って、ソクシンランの遺伝的分化のパターンは、ソクシンランの分布域のギャップ(ソクシンランはトカラ列島と先島諸島には分布しない)をよく反映していることがわかった。
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