本研究では、原始的単子葉植物の中でも、渓流沿いなどの水とかかわった環境や石灰岩土壌などでよく生育し、隔離的に分布する種を多く含むチシマゼキショウ科に特に焦点を当てて、近縁種レベル並びに種内分類群レベルの系統分類学と植物地理学に関する解析を行った。このチシマゼキショウ科は、原始的単子葉植物の中でも、特に形態的に原始的なものの1つとして注目を集めている分類群である。 まず、チシマゼキショウ属とイワショウブ属の分子系統樹を構築し、それらの詳細な系統関係を高いブートストラップ確率で推定した。また、系統進化上重要と考えられる形態形質の再評価も行った。そして、チシマゼキショウ属とイワショウブ属を構成する4つのクレードのうち、孤立したTofieldia calyculataのクレードを除いた3つのクレードは、何れも1つの広域分布種といくつかの地域固有種から成り立っていることを見出した。 次に、東アジアの8地域に隔離分布するハナゼキショウの種としてのまとまりを検証するために、8地域の各々から最低1個体のハナゼキショウを解析に加え、分子系統樹を構築した。また同時に、形態形質の詳細な観察も行った。その結果、これまでのハナゼキショウを、ハナゼキショウ(狭義)、ヤシュウハナゼキショウ(新ランク)、ヤクシマチャボゼキショウの3種に分割するのが妥当と考えた。これら3種は特に近縁というわけではなく、ハナゼキショウ(狭義)はチシマゼキショウの姉妹群、ヤシュウハナゼキショウはTofieldia thibeticaとT.divergensのクレードの姉妹群であることが判明した。また、ヤクシマチャボゼキショウの中に、ヒュウガハナゼキショウ(新変種)とTofieldia yoshiiana var. kanwonensis(新組合せ)の2変種を認めるのがよいと考えた。
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