研究概要 |
遺伝情報の翻訳過程において、終止コドンはtRNAではなくタンパク質(ポリペプチド鎖終結因子,RF,eRF)により認識される.原核生物では2種類の因子,RF1とRF2が3種の終止コドン(UAA,UAG,UGA)認識を分担して行っているが,真核生物では唯一の因子であるeRF1が3つのコドンすべてを認識している.すなわちeRF1はURR(R=AまたはG)コドンを認識することになるが,UGGは終止コドンではなくトリプトファンのコドンなので,eRF1がUAA,UAG,UGAを終止コドンとして認識しながらUGGを認識しないという機能を実現するためには,何らかの分子認識メカニズムが存在するはずである. これに対し,変則的終止コドン使用を行っている繊毛虫類を含む各種真核生物eRF1のアミノ酸配列を比較した.これと既に報告のあるヒトeRF1の結晶構造と照らし合わせることにより,これを説明しうる終止コドン認識メカニズムモデルをすでに提出している(Muramatsu et al.,FEBS Lett.488,105-109(2001)).この仮説では,コドン認識はeRF1のドメイン1の先端部分で行われているが,3種類の終止コドンに対応するために,この部分が立体構造上いくつかの構造をとりうる柔軟性を持ち合わせていることを予測している。 今年度は、その動的性質(ダイナミクス)を調べるために,ヒトeRF1ドメイン1の発現系・精製系を作成し,その^<15>N-および^<13>C/^<15>N-標識体を調製し,三核三次元核磁気共鳴(NMR)等の測定を行った.これまでに,分離のよいスペクトルを得て,主鎖の帰属を終了し,現在,各残基の運動性の解析を行っている.
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