研究概要 |
我々は脳神経系におけるガングリオシドの機能を解明することを目的として、ガングリオシドが何らかの神経機能に関わる分子と会合していることを想定し、抗ガングリオシド抗体による免疫沈降で共沈させ単離することを試みてきた。その結果、ラット小脳顆粒神経細胞において抗ガングリオシドGD3抗体で、80kDa,56/53kDa,40kDaのリン酸化タンパク質,135kDaタンパク質が共沈することを見つけた。そして80kDaはsrcファミリーキナーゼ基質Csk-binding protein (Cdp)、56/53kDaはsrcファミリーキナーゼLyn、40kDaは神経特異的三量体Gタンパク質Goのαサブユニット,135kDaはGPIアンカー神経細胞接着分子TAG-1であることを報告してきた。そしてTAG-1は脂質ラフトにおいてLynを介して細胞内にシグナルを伝達していることを示してきた。 Cbpは脂質ラフト膜貫通タンパク質で、srcファミリーキナーゼのネガティブフィードバック調節に関わっていることが知られている。CHO細胞はガングリオシドとしてはGM3のみを発現しておりGM3はGD3合成酵素の基質であるので、CHO細胞にGD3合成酵素遺伝子cDNAをトランスフェクションするとガングリオシドGD3を発現するようになる。さらにこの細胞にCbp cDNAを発現させると、抗ガングリオシドGD3抗体でCbpが共沈し、GD3とCbpの会合が再構成系においても確認できた。またCHO細胞にCbp, Lynを共発現させるとCbpがチロシンリン酸化され、CbpはLynの基質タンパク質であることが確認できた。次に小脳発生に伴うLyn, Cbpのシグナル伝達について調べてみた。発生初期および成体ともに、Lyn, Cbpタンパク質は脂質ラフト画分に検出されたが、活性化型Lynとチロシンリン酸化型Cbpは発生初期のみに見られた。このときのCbpのリン酸化部位は314番目のチロシンであることがリン酸化特異的抗体により確認された。またLyn, Cbp, TAG-1は成長円錐画分に濃縮していることをすでに見出している。この結果は、TAG-1の脂質ラフトにおけるLyn/Cbpを介するシグナル伝達は、小脳発生初期の顆粒細胞成長円錐でおこっていることを示唆している。
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