ピルビン酸キナーゼ(PK)M1アイソザイムと共通の遺伝子から発現し、相互排他的オルタナティブスプライシングによって生成するM2アイソザイムは典型的なアロステリック型PKであり、哺乳類ではプロトタイプの酵素と考えられている。このアロステリック型のM2のMgイオンに対する応答は、単純飽和型(hyperbolic)であり協同性を示さない。PK-M2のTyr-389をM1のPheに置換することによってMgイオンの応答性がジグモイド状のM1型に変化することから、Mgイオンに関するM1の特殊な性質を決定づける残基として389位のアミノ酸(PK-M1の場合はPhe)が最有力候補と考えられた。さらに、MgイオンによるPKの活性制御を別の観点からも検討するため、エフェクター以外のリガンドであるMgイオンの濃度変化による酵素の失活という点からPK-M2を用いて詳細に検討した。FBP非存在下において反応系に添加するマグネシウムイオン濃度を0.1mMまで低下させると、急激な酵素活性の消失が観察された。その失活過程は見かけ上一次反応に従っていた。反応途中でFBPを添加すると、ヘテロットロピックなアロステリック効果による活性化が観察されたが、その時点での残存活性に依存したものであり、不活性化された酵素はFBPの添加によっても再活性化されないこと、そして酵素の失活途中であってもFBP添加によって酵素が安定化されそれ以上活性が低下しないことが速度論的な解析からわかった。このような性質は常に安定なPK-M1には観察されず、アロステリック型と非アロステリック型のPKにおけるMgイオンによる制御には様々な様式があることがわかった。どのような構造基盤によってこういった制御の違いが生じ、糖代謝の生理的な調節において実際にどういった意義があるのかをさらに検討していきたいと考えている。
|