研究概要 |
ピルビン酸キナーゼ(PK)M遺伝子から発現するM2アイソザイムは典型的なアロステリック型PKである一方、M1は非アロステリック型であることが知られている。ところが、反応に必要なMgイオンに対する応答性に着目すると、M2のMgイオンに対する応答は単純飽和型であり協同性を示さないのに対して、非アロステリック型アイソザイムであるM1では協同性を示すことを見出した。本研究では、主としてこのアイソザイムの2価イオン要求性について検討した。バキュロウイルス・昆虫細胞発現系を用いて調製した精製酵素を用いて以下のような解析を行った。M2ではMgイオンに対して、これまで知られているようにほぼ単純飽和型の速度論的性質を示したが、M1では見かけの活性化定数K=0.5〜1.0mMをもった、弱いジグモイド状の応答を示した。このことから、M1にはアロステリック型M2では見られない、Mg依存的はサブユニットの協同的な構造変化があると考えられた。すなわち、M1は常に活性型コンフォメーションであるために、基質であるホスホエノールピルビン酸やフルクトース1,6二リン酸(FBP)による活性化という現象は観察されないが、Mg濃度の低下により不活性型コンフォメーションに変化し、この2価イオン濃度の上昇とともに協同的に活性型へと変化することが示唆された。十分な濃度(5mM以上)のFBPを共存させておくと、先述したようなジグモイド状の応答、すなわち協同性が認められないことからも、これまで恒常的に活性型コンフォメーションであると考えられていたM1はMgイオンによって速度論的な性質が変化し、活性が調節されるものと考えられた。さらに、M2のTyr-389をM1のPheに置換することによってMgイオンの応答性がジグモイド状のM1型に変化することから、389位のアミノ酸残基が重要と考えられた。このようにMgイオンの関わる調節には様々な様式があることがわかったが、糖代謝の生理的な調節における意義をさらに検討していきたいと考えている。
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