マウスES細胞由来のVEGFR2^+細胞から血管内皮細胞あるいは平滑筋細胞が分化する実験系を用い、血管内皮・平滑筋細胞分化におけるチロシンキナーゼシグナルの役割を検討した。 (1)内皮細胞分化におけるVEGFR3シグナルの役割の検討 VEGF-C、Dの受容体であるVEGFR3をSupertransfection法によりマウスES細胞に高発現した後、VEGFR2+細胞を調製した。これをVEGF-Cで刺激すると細胞は内皮細胞へと分化し、さらにリンパ管内皮細胞のマーカーであるLYVE-1を高発現するようになった。VEGF-CはVEGFR2とVEGFR3を刺激するリガンドであるが、VEGFR3特異的変異体VEGF-C(C152S)を用いると内皮細胞分化はおこらなかった。VEGF-C刺激を行った場合、VEGFR2のシグナルが内皮細胞分化に必要であるが、ここに更にVEGFR3のシグナルが加わることにより、リンパ管内皮細胞様の形質が賦与されるものと考えられる。 (2)FGFシグナルの血管細胞分化系への作用の検討 VEGFR2^+細胞をFGF-2で処理した細胞群は45%がPECAM1^+の血管内皮細胞へ、20%がSMA^+の平滑筋細胞へ分化したが、残りの35%はどちらの分化マーカーについても陰性のままであった。従って、FGF-2はVEGFR2^+細胞を単一の細胞系列へと分化させるわけではないことがわかった。ついで、VEGF-AとFGF-2による共刺激の効果を検討した。VEGF-A単独刺激では内皮細胞のみが分化してくるのに対し、VEGF-A/FGF-2共刺激では5%ほどの頻度で平滑筋細胞も分化してくることがわかった。また、分化した平滑筋細胞は内皮細胞シートに接着してコミュニケートしており、これは内因性のPDGF-B/PDGFRβシグナルにより媒介されていることを明らかにした。
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