研究概要 |
肝細胞増殖因子(HGF)の局所的活性発現を制御する2つの阻害因子(HAI)が近年申請者らにより新規機能分子として同定され,膜結合型セリンプロテアーゼインヒビターであること,生合成後に細胞表層に選別輸送され膜型分子となった後に複数のより小さな分泌型へプロセッシングされることがわかった。さらに最近,タンパク質問相互作用スクリーニングによってHAIがPDZドメインを介してアポトーシス制御因子と相互作用することを発見した。本研究では,細胞死に関わるシグナル伝達調節因子と相互作用することによってHGFの活性発現制御が及ぼす細胞増殖調節の基本メカニズムを分子レベルで解明することを目的として,HAIの機能解析を行い現在までに以下の知見を得た。 1.HAIの活性阻害発現における個々の機能ドメインの生理的役割を解明するため,各機能ドメインの欠失体およびP1部位点突然変異体を作製し,発現蛋白について機能変化を解析した結果ではHGF activatorとの相互作用には第1Kunitzドメインが重要であり,第2Kuntizドメインは他のプロテアーゼを基質とする可能性があり,膜型・分泌型の分子構造の違いを含めたプロセッシング様式によっても阻害作用が影響を受けるという結果が得られた。これらHGF活性の直接的な阻害による細胞増殖調節メカニズムについては現在別途検討中である。 2.膜結合型から分泌型が生成するプロセッシング機構を解明する上で欠かせないHAIの分泌酵素(secretase)を探索することを目的として,酵母ツーハイブリッド・スクリーニングにより膜型HAIと相互作用するホスファターゼが得られた。さらなる蛋白間相互作用実験により,この相互作用はHAIのC末3残基を介してすることがわかった。現在アポトーシス制御因子とも考えられているこの細胞質分子を培養細胞系で安定発現株を作製し,現在アポトーシスに対する影響を解析中である。 3.HAIの細胞質領域と相互作用する機能分子を探索する過程で,上記分子以外に細胞骨格蛋白質を含む複数の細胞質蛋白がスクリーニングされた。これら細胞内分子との相互作用が細胞増殖制御に関与することが考えられる。 今後も組織障害特異的なあるいは胎生期初期に必然的にHGFの局所的な活性発現が営まれるうえで,細胞死においてHAIがどのような生理的役割を担うのか次年度以後さらなる検討を試みたいと考えている。
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