研究概要 |
Nudix蛋白質は,細胞にとって有害なヌクレオチドや過剰に増加したヌクレオチド代謝産物を分解するヒドロラーゼの総称であり,その働きからhouse-cleaning酵素とも呼ばれる。その基質はいずれもヌクレオチド二リン酸に何かが結合した(nucleoside diphosphate-linked X)化合物である。Nudix蛋白質はそれらを分解することによって,遺伝情報の維持,細胞増殖やシグナル伝達の制御などに関わっている。本研究では,高度好熱菌Thermus thermophilus HB8のNudix蛋白質群(Ndx1〜8)を大腸菌体内で大量発現させ,立体構造解析および分子機能解析を行って,各種ヌクレオチドの認識および分解機構を,原子レベルで詳細に解明することを目的としている。Ap6Aを分解するNdx1については,基質複合体の結晶構造を決定した。これに基づいて作製した変異体を解析することによって,基質であるジアデノシンポリリン酸の認識には,アデニン塩基からγ位までの部分が重要であること,さらに二価金属イオンに配位するグルタミン酸残基が触媒に必須であることを明らかにした。次に,ADP-riboseを分解するNdx4については,詳細な変異体解析の結果にもとづき,昨年度,触媒残基の同定を中心に提唱した反応機構は誤りであり,Nudixモチーフ内の2つのグルタミン酸残基およ金属イオンに配位した水分子が触媒に必須であることを明らかにした。また,他のNdx蛋白質においても,オリゴマー状態や基質特異性などが大きく異なるものの,活性部位で重要な残基や反応機構は非常によく似ていた。これらのことから,基質認識を担う部分は多様性だが,触媒反応を担う部分は共通であるという,多様なNudix蛋白質の機能発現機構を明らかにした。
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