IscSはビタミンB6を補酵素に持つシステインデスルフラーゼである。主に酸化還元反応を行なう様々なタンパク質の活性中心として知られる「鉄硫黄クラスター(Fe/S)」構成成分の硫黄原子はIscSによってシステイン分子から切り離されたものである。バクテリアでは、IscSによってつくり出される硫黄原子は鉄硫黄クラスター以外にも、チアミンの生合成やtRNAの修飾に関与するとの報告がある。当該研究者らは酵母IscS(Nfis1p)を用いて、真核生物におけるIscSタンパク質の多機能性を追求している。真核生物では、Nfs1pの存在するミトコンドリアで鉄硫黄クラスター形成が行なわれ、ここでもNfs1pが硫黄原子をクラスター構成成分として供与している。一方、真核生物では、核で作られる細胞質tRNA(cy-tRNA)とミトコンドリアで作られミトコンドリア内にのみ存在するtRNA(mt-tRNA)がある。wobble位置にチオ修飾を持つtRNAはcy-tRNAにもmt-tRNAにも知られており、このチオ修飾はmRNA翻訳の効率維持やtRNA構造の安定化に重要である。当該研究者らは、この度、Nfs1pが、mt-tRNAのみならずcy-tRNAのチオ修飾にも関与することをin vivoの実験で明らかにした。Nfs1p枯渇によりmt-tRNA_<UUU>^<Lys>とmt-tRNA_<UUG>G^<Gin>双方のwobble位置のチオ修飾は速やかに起こらなくなり、またcy-tRNA_<UUU>^<Lys2>とcy-tRNA_<UUC>^<Glu3>のwobble位置のチオ修飾も著しく減少した。cy-tRNAでも、mt-tRNAの場合に比べてゆっくりとではあるがチオ修飾は減少した。またLC/MS解析により、Nfs1pを枯渇した菌体のcy-tRNAではmcm^5s^2Uの減少に見合うようにその未チオ化前駆体が増えていた。本研究により、ミトコンドリアのNfslpによってmt-tRNAのチオ修飾が速やかになされるのに対し、ミトコンドリアNfs1pによって生成した硫黄原子はなんらかの形で細胞質に運ばれたものがcy-tRNAのチオ修飾にも使われることが明らかになった。
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