RGS8は、Gαとの反応部位であるRGSドメインと短いN端配列のみから成る比較的低分子のRGSタンパクである。このRGS8は、活性化されたGαiファミリーに直接結合しGAPとして作用して、Gi系制御を行う。一方、Gq系については、生化学的解析で、かなりGαqへの親和性が低いことが明らかになった。しかし、種々のGq共役受容体と共発現させ解析すると、RGS8はムスカリニックm1受容体とサブスタンスP受容体の応答を強く抑制することが判明した。しかし、同じGq受容体でも、ムスカリニックm3受容体の応答は、RGS8は抑制することができなかった。更に、最近見つかった分子種のRGS8Sは、N端部9残基のみの違いにも関わらず、いずれのGq共役受容体に対してもその抑制効果は弱かった。このように、「RGS8は、特定のタイプのGq受容体系を選択して、その応答を抑制する。しかし、N端9残基が異なるRGS8Sは、この能力を欠いている。」ことが明らかなった。本研究は、どのような機構によって、RGS8が、受容体選択的にGq系を阻害するのかを明らかにしようというものである。おそらく、RGS8は、本来親和性が低いためGqタンパクにはなかなか近づけないが、RGS8がN端を介して特定の受容体と直接相互作用すると、RGS8は細胞膜上のGqタンパクの近傍にリクルートされ、そしてGq制御因子として機能することができるようになるのではないだろうか。 16年度は、Gタンパク質以外のGqシグナリングに関わる既知の情報伝達因子で、直接RGS8あるいはRGS8Sと相互作用するものはないか検討を行った。結果、極めて興味深い結果が得られた。まずRGS8とRGS8Sの組み換え蛋白質を作成して、カルモジュリンとの結合性を解析した。すると、RGS8がCa^<2+>依存的にカルモジュリンに結合することが明らかになり、しかもN端9残基のみが異なるRGS8Sは反応性が弱いことが判明した。このことは、RGS8の特異的N端部に直接Ca^<2+>/カルモジュリンが結合することを示唆している。また、M1、M2、M3ムスカリン受容体の第三細胞内ループの組み換え蛋白質を用いて、GqあるいはGi系のGPCRとの直接の反応性を解析した。すると、RGS8がGq系のM1及びM3受容体とは結合するが、Gi系のM2受容体とは結合しないことが判明した。しかも、N端が異なるRGS8Sは、そのGq受容体結合能が低く、さらにN端がないと受容体結合能が著しく減少することが確認された。さらに、RGS8とM1受容体の結合と、RGS8とM3受容体の結合については、それぞれRGS8上の結合部位が異なる可能性を示唆するデータが得られている。このようにRGS8が、その特異的N端を中心に相互作用して、細胞膜上でCa^<2+>/カルモジュリンさらに直接Gq受容体を巻き込んだ複合体を形成して、反応特異性を調節している機構が明らかになってきた。
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