研究課題
基盤研究(C)
RGS8は、Gαとの反応部位であるRGSドメインと短いN端配列のみから成る比較的低分子のRGSタンパクである。このRGS8は、活性化されたGαiファミリーに直接結合しGAPとして作用して、Gi系制御を行う。一方、Gq系については、生化学的解析で、かなりGαqへの親和性が低いことが明らかになった。しかし、種々のGq共役受容体と共発現させ解析すると、RGS8は特定のGq受容体の応答を強く抑制することが判明した。更に、最近見つかった分子種のRGS8Sは、N端部9残基のみの違いにも関わらず、いずれのGq共役受容体に対してもその抑制効果は弱かった。そこで、本研究は、どのような機構によって、RGS8が、受容体選択的にGq系を阻害するのかを明らかにしようというものである。15年度は、RGS8のGAP活性がその受容体選択的なGq系制御に必要かどうか検討を行った。即ち、RGS8のGq受容体制御の機構を明らかにしていくには、その制御にRGS8の特異的なN端部とさらにそのRGSドメインの機能の両方が寄与しているのかが、まず重要な問題である。Gq系の制御ができるRGS8とその能力の弱いRGS8Sの違いは、N端9残基の配列だけである。そのため、一つの可能性としては、Gq系の制御には、RGS8のN端9残基のみが必要で、これが直接受容体に作用して阻害作用を示すことも考えられる。この場合、RGS8のGα結合能・GAP活性は、必要ないことになる。そこで、この可能性を検討するため、RGS8のRGSドメイン内に点変異を導入し、Gαに結合できなくした変異体RGS8(L153F)を用いて、そのGq系制御能を検討した。ツメガエル卵母細胞に、このRGS8(L153F)を発現させ、Gq応答を解析した。結果、RGS8は、RGSドメインが機能しなくなると、Gq受容体の制御能が激減してしまうことが明らかになった。このように、RGS8のGq制御には、そのN端9残基とRGSドメインのGAP活性の両方が必要であることが判明した。16年度は、Gタンパク質以外のGqシグナリングに関わる既知の情報伝達因子で、直接RGS8あるいはRGS8Sと相互作用するものはないか検討を行った。結果、まずRGS8がCa^<2+>依存的にカルモジュリンに結合することが明らかになり、しかもN端9残基のみが異なるRGS8Sは反応性が弱いことが判明した。このことは、RGS8の特異的N端部に直接Ca^<2+>/カルモジュリンが結合することを示唆している。また、M1、M2、M3ムスカリン受容体の第三細胞内ループの組み換え蛋白質を用いて、GqあるいはGi系のGPCRとの直接の反応性を解析した。すると、RGS8がGq系のM1及びM3受容体とは結合するが、Gi系のM2受容体とは結合しないことが判明した。特に、M1への結合性が強いものであった。さらに、N端が異なるRGS8Sは、受容体結合能が低く、その上RGS8はN端がないと受容体結合能が著しく減少することが確認された。このようにRGS8が、その特異的N端を中心に相互作用して、細胞膜上でCa^<2+>/カルモジュリンさらに直接Gq受容体を巻き込んだ複合体を形成して、反応特異性を調節している機構が明らかになってきた。
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