緑色イオウ細菌の光合成反応中心はシアノバクテリアや植物の系I型反応中心と同じタイプ1(FeSタイプ)反応中心である。この反応中心の電子移動機構を分子レベルでより詳細に解析していくためには、分子遺伝学的な解析が欠かせない。2001年、緑色イオウ細菌の形質転換系が初めて報告されたので、我々は早速、homologous recombinationによる突然変異株作成に取り組むことにした。緑色イオウ細菌の反応中心は5種類のサブユニット(コア:PscA、F_A/F_Bタンパク:PscB、チトクロムc_z:PscC、18kDaタンパク:PscD、FMOタンパク)から構成される。本年は、その中で未だに機能不明なPscDサブユニットに着目し、その欠失株作成に取り組むことにした。 得られた変異株は、まず目的のpscD遺伝子が破壊されていることをサザンブロッティングによって確認した。さらに標品を単離後、SDS-PAGEによりPscDサブユニットが欠失していることも確認した。変異株は野生株に比較してその生長速度は若干遅くなっていたが、光合成的に生きていく上で必須ではないことが分かった。蛍光スペクトルを測定したところ、変異株ではFMOタンパクとクロロゾームからの蛍光が野生と比較して増大していた。そこで時間分解蛍光スペクトルを解析することにより、変異株ではFMOタンパクからP840へのエネルギー移動効率が悪くなっていることが判明した。またNADP^+光還元活性を測定したところ、変異株では約40%の減少が観測された。電子顕微鏡による解析から、PscDサブユニットはコアタンパクの細胞質側に存在し、FMOタンパクと接触していることが示唆されていた。我々の得た今回の結果は、電子顕微鏡による解析結果を支持するものであり、PscDサブユニットが効率的なエネルギー移動に関与していることが明らかとなった。またPscDは系IのPsaDの一次構造と比較すると、わずかながらもsimilarityが存在する。系IのPsaDはferredoxinのdockingタンパクとして機能していることが分かっており、緑色イオウ細菌のPscDも同様な機能を持つと推測された。
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