緑色イオウ細菌反応中心の電子移動機構を分子レベルで詳細に解析していくためには、分子遺伝学的な解析が欠かせない。2001年に確立された緑色イオウ細菌の形質転換系の報告を受け、我々はhomologous recombinationによる突然変異株作成に取り組むプロジェクトを立ち上げた。この2年間の成果は以下の通りである。1.PscDサブユニットの機能解析:緑色イオウ細菌の反応中心は5種類のサブユニットから構成される。その中で未だに機能不明なPscDサブユニットに着目し、その欠失株を作成した。変異株は野生株に比較してその生長速度は若干遅くなっていたが、光合成的に生きていく上で必須ではないことが分かった。時間分解蛍光スペクトル解析により、変異株ではFMOタンパクからP840へのエネルギー移動効率が悪くなっていることが判明した。またNADP^+光還元活性を測定したところ、変異株では約40%の減少が観測された。2.チトクロムc-554の機能解析:チトクロムc-554の欠損株から膜標品を調製し、閃光照射実験を行った。その結果、bc複合体とP840との間の電子伝達には可溶性のチトクロムc-554は必要ではなく、チトクロムc_zが直接関わっていることが証明された。またチトクロムc-554は比複合体から電子を受け取ることはできず、光化学反応中心への電子供与にはシトクロムbc複合体とシトクロムc-554からの2つの独立した経路が存在することを明確にした。以上の結果から、緑色イオウ細菌の光化学反応中心解析には、分子遺伝学的な手法が有効であることが分かった。今後は本プロジェクトをさらに発展させ、最終目的であるキノンの探索を行っていく予定である。
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