本研究は、基準振動解析の結果を、類似タンパク質間で比較し、共通点・相違点を明らかにすることで、動的構造を理解することを目的としている。本年度は、多くのアミノ酸置換体の立体構造がわかっている牛すい臓のトリブシン・インヒビター(BPTI)とヒト・リゾチームについてそれぞれ基準振動解析を行い、天然型と変異型の結果を比較・検討した。新しく得られた知見としては、静的構造(X線結晶構造の比較)の変化ではアミノ酸置換した部位周辺に構造変化が現れるのに対して、動的構造(基準振動解析で得られる、たとえば、各アミノ酸残基の揺らぎの大きさの比較)の変化は、必ずしも置換部位に現れるとは限らず(むしろまれ)、置換部位とは一見関係ない、ドメインとドメインの蝶番領域のような部位に現れる傾向があることがわかった。BPTIでは、アミノ醸置体が疎水コア周辺で行われたものが多く、それがドメイン間の相互作用に変化を与え、ドメイン間の相対運動を変化させていた。ドメインは比較的硬い構造なので、それ自身の揺らぎが変化するよりも、ドメインをつなぐ蝶番領域の揺らぎを変化させることでドメイン間の相対運動を変化させているようである。リゾチームについては、さらに多くの置換体データがあるので、統計的に解析して、より精密な議論ができるよう、現在その方法を開発中である。なお、今後基準振動解析が終了したタンパク質を、その構造の類似性によって整理していくことが不可欠であり、そのためのプログラム開発も行った。具体的には、構造分類で量もよく利用されるSCOPを使い、解析が終了したタンバク質と類似で、まだ解析が終了していないタンパク質を検索したり、分類のカテゴリーの中で、まだ解析が終了したタンパク質が一つもないものを検索したりする機能を備えたシステムを開発した。
|