タンパク質立体構造の動的構造を明らかにするために、リゾチームの野生体と数多くの変異体(1〜数アミノ酸残基置換体)について、また、相同な(同じスーパーファミリーに属する)複数のタンパク質について基準振動解析を行い、その結果を相互に比較した。 1.リゾチームにおいては、野生体から変異体への静的構造の変化と動的構造の変化(ここでは各アミノ酸残基のゆらぎの変化を指す)との間にはっきりとした相関はみられなかった。そこで、様々な変異体におけるゆらぎの変化を主成分分析することによって、アミノ酸置換が引き起こす基本的な変化を調べた。その結果、ドメイン運動の変化が個々のアミノ酸残基のゆらぎの変化の根底にあることがわかった。また、活性部位を構成する原子どうしのゆらぎの相関が弱まると活性が低くなる傾向にあることもわかった。 2.相同なタンパク質間の比較では、まずそれらを立体構造アラインメントし、対応するアミノ酸残基のゆらぎを比較した。相同タンパク質では、Foldは基本的に同じであるものの、アミノ酸配列はときに大きく異なっており、また挿入や欠失もある。しかし、対応するアミノ酸残基のゆらぎの大きさは、αヘリックスやβ構造の領域では、一般に、定性的にも定量的にもよく一致していた。一方ループ領域では、本質的にゆらぎが大きく、その点では一致していたが、挿入や欠失の影響を直接に受け、定量的には異なっていた。さらに動的なドメイン構造についても比較、検討した。立体構造上にドメインを色分けし、最適重ね合わせして表示してみると、共通性の高い、おそらくそのFoldの核となると考えられる領域が明確に浮かび上がってきた。こうした情報は、個々のタンパク質の観察だけでは得ることのできないものであり、多くのタンパク質について基準振動解析を行い、そのデータを蓄積したわれわれの研究で初めて得られた成果である。
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