研究概要 |
インフルエンザ発症に重要な役割を持つウイルスの宿主細胞への侵入メカニズムを解明するため,細胞表面を模した人工表面を作製し,この表面におけるウイルス粒子の行動を単一粒子追跡法により可視化解析した.その結果,インフルエンザウイルスが細胞表面で2次元的に運動する能力を持つことを世界で初めて発見した.さらにこの運動のメカニズムの解析を進めた結果,以下1〜4の成果が得られた. 1.インフルエンザウイルスは,ウイルスヘマグルチニンと細胞表面のシアロ糖鎖の結合を入れ換えることで表面を移動する. 2.ウイルスノイラミニダーゼはシアロ糖鎖を破壊することでヘマグルチニン-シアロ糖鎖結合の入れ換わりを促進し,その結果としてウイルスの表面での動きを容易にする. 3.ウイルスは,細胞表面を移動することでエンドサイトーシスを受けやすくなり,その結果細胞への侵入および感染効率を高める. 4.トリ型のインフルエンザウイルスとヒト型のインフルエンザウイルスでは表面での行動パターンが異なる. 上記の結果は,インフルエンザウイルスが,これまで報告されている生物の運動メカニズムとは全く異なる運動メカニズムをもつことを初めて証明したものであり,きわめてユニークな研究である.また上記4に関しては,ウイルスの細胞表面での行動という新しい視点が,新型インフルエンザウイルス出現メカニズムを解明する上でのブレークスルーとなると期待され,今後の研究の進展が注目されている.
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