本研究では酵母DNAポリメラーゼφの生体内での機能を解析するために、新しいタイプの変異株の構築を行った。DNAポリメラーゼφの遺伝子の上流に高温にするとユビキチンの蛋白質分解系の基質となるペプチド(デグロン)を挿入した株を作成した(図参照、pol5td)。この株は高温(37度)で致死にならなかったので分解系のUBC4遺伝子産物を大量に発現するためのプラスミドをこの株に導入した。その結果、高温(37℃)で致死となる株が得られた(pol5td株)。 DNAポリメラーゼφの変異株(pol5td)の非許容温度での遺伝子発現のパターンを調べるためにDNAマイクロアレイ法での解析をおこない、同一条件での野生型の発現と比較した。転写量が増大した遺伝子、減少した遺伝子とも数多く観察されたが温度ショック、突然変異剤の暴露等の場合に見られるように特定の遺伝子群が特異的に変化しているという結果は得られなかった。このことはこの遺伝子が特定の遺伝子群ではなく、普遍的な転写制御を行っていることを意味している。また、電離放射線に対する応答をγ線を用いて調べた。γ線源としてはコバルト60を用いた。その結果、低線量放射線曝露(約10グレイの照射線量)に対しては、たんぱく質合成に関する遺伝子の抑制とともに、ミトコンドリア機能に関する遺伝子の抑制が確認された。
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